スキー・スノーボードブームの終焉、雪不足、そしてコロナ禍による緊急事態宣言。
スキー場経営はかつてない窮地に見舞われています。
そんな中、我々一般のスキーヤー・スノーボーダーが心配するのは「近い将来、日本にスキー場がなくなってしまうのではないか」ということではないでしょうか。
私自身、大好きなスキー・スノーボードを次の世代に残せないのは、寂しいものがあります。
今回は白馬の南端に位置する 爺ガ岳スキー場の屋田社長にインタビューする機会をいただいたので、
- 経営は厳しいの?
- ゲレンデはどんどん無くなっていくの?
- スキー場経営に未来はあるの?
一般ユーザーとして、スキー場経営の気になる部分を伺ってきました。
目次
爺ガ岳スキー場屋田社長プロフィール

株式会社フリーフロート代表取締役CEO。
長野県白馬村出身。
スノーボーダーとしてワールドカップなどに出場、競技引退後はICELANTICSKIの日本正規輸入代理店である㈱フリーフロート代表取締役に就任。
さらに2020年7月からは大町温泉観光㈱の代表取締役として 爺ガ岳スキー場の経営に携わる。
スキー・スノーボードの潜在ニーズはまだ残っている




今も全国でスキー場の倒産が相次いでいます。やはり現状のスキー場経営は厳しいのでしょうか?
確かに現状のスキー場経営は苦しい状態にあります。
しかし、今は控えるのではなく、スキー場の基盤を整える時期だと考えています。
たとえば、お客様を受け入れるにあたって、様々な部分を見直しました。
消毒液、検温機、パネル、オゾンクリーナー等、あらゆる感染症対策は尽くしています。
また床を這って動き回るお子様に配慮して、飲食エリアを全てマットに張り替えました。
こういった施策をクイックにやるからこそ、この先も生き残っていけるのではないかと思います。
ここが底辺だと思えば、あとは上がっていくだけです。
いざ状況が改善しても、以前と変わらないスキー場ではお客様は戻ってきませんからね。
スキー・スノーボードは斜陽産業とも言われています。その点はどう考えていらっしゃいますか?
現在スキー・スノーボードの競技人口は、日本の全人口の5%程度です。
残り95%の方をターゲットにすれば、潜在的なパワーはまだ残っていると思います。
爺ガ岳スキー場は、5%のニーズを他のスキー場と奪い合う経営ではなく、95%の潜在ニーズの掘り起こしに力を入れています。
我々もいろいろなデータを集めていますが、スキー・スノーボードの潜在ニーズはあると確信していますね。
95%の潜在ニーズを掘り起こすため、具体的にどんな施策をされていますか?
もともと 爺ガ岳スキー場は、幅広な緩斜面で初心者の方に優しいゲレンデです。
さらに弊社が経営を引き継いだ2020年7月から、レンタル用品の一新、キッズパークを全面改装するなど初心者の方やファミリーに優しいスキー場を目指しています。
爺ガ岳スキー場は特化することに勝機を見いだしている




しかし、 爺ガ岳スキー場付近には八方尾根や栂池高原など日本を代表するビッグゲレンデも控えていますよね。そういった大規模なスキー場と戦って勝機はあるのでしょうか?
爺ガ岳スキー場は最初から大規模なスキー場と戦うつもりはありません。
むしろ初心者の時だけ 爺ガ岳スキー場で練習してもらい、上達したら大規模なゲレンデへ送り出したいと考えています。
そのほうが、結果として当ゲレンデの価値も上がりますからね。
私もがっつり滑りたいほうなので、そういった方はビッグゲレンデに行くべきでしょう。
しかし、初心者の方はビッグゲレンデへ行っても下のほうでしか滑ることができません。
大きいスキー場は上級者にも配慮しなければいけないですからね。
いわば初心者の方に特化することで勝機を見いだしているというわけですね。
むしろこのスキー場で持て余すようになったら、「八方とかもっとすごいゲレンデいっぱいあるよ」と教えてあげたいです(笑)
パウダーが好きな方はパウダーに特化したスキー場に行けばいいし、いろいろなコースを滑りたいなら大規模なスキー場に行けばいい。
ただ、また初心者の友人と来ることがあったら、「ぜひうちのスキー場に来てね」と言いたいですね。
海外のスキー場と比較すると日本のスキー場の現状はいかがでしょうか?
私はアルペンスノーボードの代表として世界を転戦してきました。
その中で感じたのが、日本のスキー場は空前のスキーブームだった30年前から何も変わってないという事実。
こういう時期だからこそ変革が迫られています。
ゲレンデ規模に関係なく、変化できないスキー場は今後生き残っていけないでしょう。
スキー場は雇用創出と地方経済の根幹を担っている




すでに平日休みや時短営業を実施しているスキー場もありますが、そういった施策は考えていらっしゃいますか?
確かに経営を考えれば、そういった施策も必要かもしれません。
しかし、スキー場は地方経済の根幹を担っている部分もあります。
たとえば当スキー場が休業した場合、付近のホテルやレストランはどうなるでしょう。
逆にホテルやレストランのお客様が当スキー場を利用している側面もあります。
要はスキー場と地域、町が力を合わせることによって、はじめて相乗効果を発揮します。
そもそもリフト運行など、地元の協力なくしてスキー場は運営できません。
スキー場の都合だけで、安易に運営方針を変えてはいけないと考えています。
爺ガ岳スキー場は地元の方の利用も多いそうですね。
「スキー場は絶対に地元を無視してはいけない。」
私が経営者として一番大事にしている部分です。
地域の方に必要な観光資源だと思っていただかないと、経営が立ち行かないですからね。
スキー文化を絶やしたくなかった




スキー場には経済や雇用以外の側面もありますよね。
もともと大町には5つのスキー場がありましたが、今残っているのは鹿島槍と 爺ガ岳スキー場だけです。
その内の一つ、 爺ガ岳スキー場も19-20シーズンの雪不足で存続の危機が迫っていました。
その話を聞いたとき「大町のスキー文化を絶やしたくない」という思いが強くなったのです。
雪国でのスキーは文化的な側面もあります。
いざ子ども達がスキーを始めるとき、地元にゲレンデがないという状況はなんとしても避けたかった。
だから 爺ガ岳スキー場の経営に携わることになったのです。
ICELANTICSKIの卸販売をされていますよね。しかし、コアユーザーが多いブランドと初心者向けのスキー場というのがアンマッチな印象を受けるのですが?
初心者の方がスキーを始めてくれなければ、コアユーザーも増えません。
最初は雪遊びでもソリでもなんでもいいと思います。
その中でスキーにはまってくれる人が増えれば、何年後かにICELANTICのユーザーになってくれるかもしれません。
ウインター業界の間口を広げるのが、 爺ガ岳スキー場の役目だと思っています。
生まれ変わった 爺ガ岳スキー場




屋田社長が就任してから、 爺ガ岳スキー場は生まれ変わりました。
実際に利用客も徐々に増えているそうです。
そんな 爺ガ岳スキー場の変革については別記事にまとめました。
合わせて参照ください。
→初心者やファミリーにおすすめ!生まれ変わった 爺ガ岳スキー場10の魅力とは
まとめ




今回お話を伺って、あらためてスキー場は変革に迫られていると実感しました。
リフトさえ動かしていれば、黙っていても人が来たのは過去の時代。
確かに割引キャンペーンなどは一時的に利用者が増えますが、抜本的な解決にはなりません。
スキー・スノーボード産業も座していては終焉を待つだけです。
改革といえば 爺ガ岳スキー場意外にも、菅平高原にあるREWILD NINJA SNOW HIGHLAND (旧名称 峰の原高原スキー場)は忍者をテーマとしたゲレンデとしてリニューアルオープン、今注目を浴びています。
個人的には今後さらに民間企業の参入、特化型スキー場への流れが加速していくのではないかと思います。
取材日当日は、たくさんのファミリーやキッズで賑わっていました。
屋田社長は「まだまだこれから」とおっしゃっていましたが、いちスノーボーダーとして、スキー場がかつての賑わいを取り戻すことを願わずにはいられません。